iPS細胞を効率的に作製するための方法に関する研究進捗(2006-2011)
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2011.07.12

iPS細胞を効率的に作製するための方法に関する研究進捗(2006-2011)

 iPS細胞(induced pluripotent stem cell(人工多能性幹細胞))は2006年に京都大学の山中伸弥らによって発見された体細胞由来の万能性細胞(どのような臓器も作り出すことの出来る細胞)です。これまでにも、卵細胞由来のES細胞という万能性細胞が知られていましたが、卵細胞から作る必要があるため、倫理的問題がありました。

 現在では、研究が進み発見された当初よりも効率的にiPS細胞を作り出すことが可能となり、iPS細胞が出来るメカニズムについての研究も進んでいます。iPS細胞から様々な臓器や細胞を作り出し治療に用いるには、また別の研究が必要ではありますが倫理的問題の少ないiPS細胞を効率良く作り出せることは再生医療研究の革命と言えます。

ここで2006年のiPS細胞の発見から現在(2011/6)までのiPS細胞を効率よく作成する方法に関する研究に関して、重要だと思われるものを簡単にまとめます。

2006年マウス細胞からES細胞に似た性質を持つiPS細胞を作り出せることが初めて報告される。作成方法はSox2Oct3/4c-MycKlf4という4つの転写因子を細胞に導入するというもの。転写因子の導入にはウイルスベクターを使用。ウイルスベクターは導入した遺伝子をランダムにゲノムに組み込むので潜在的な腫瘍化の危険があることは解決しなければならない問題。(1)(薬事日報紹介記事)
2007年ヒト細胞でも同様にiPS細胞の作成に成功。(2)
2008年●腫瘍化の原因となるc-Mycを使わなくても時間をかければ(1週間ほど長く)、iPS細胞が作成可能であることが報告される(3)。かつ、この方法では腫瘍化の確率が低下することも確認。iPS細胞が腫瘍化する原因は使用しているレトロウイルスベクター由来だけでなく、使用しているc-Mycにも原因があると言える。
SV40_large_T抗原を一緒に導入することが報告される。(4)
●ウイルスベクターを使わずプラスミドベクターを使ってiPS細胞が作れることが報告される。(5)
●4転写因子の導入と共に転写因子Pax5を阻害すると作成効率が高まることが報告される。(6)
2009年●4つの転写因子を1つのウイルスベクターに搭載してiPS細胞作成に成功(7)
●3つのmiRNA(miR-291-3pmiR-294miR-295)を導入してiPS細胞の作成効率を上げる方法が報告される。(8)
●p53経路を遮断するとiPS細胞の作成効率が高まることが報告される。(9-12)(アステラス社プレスリリース)
●必要な転写因子のうちSox2、c-Mycの代わりをする低分子が見つかる。(13)
●遺伝子導入せずに転写因子のタンパクを導入してもiPS細胞が作成出来ることが報告される(14)。転写因子の細胞内への導入にはそれぞれの転写因子のC末に細胞透過性ペプチドであるオリゴアルギニンを連結した転写因子を作成し、1週間にわたり持続的に細胞内導入する手法(ロイター紹介記事)。
2011年●4因子のうち腫瘍化に関わっているc-Mycを使わずGlis1を使うとc-Myc無しで同等のiPS細胞作成効率が得られることが発見される。Glis1はES細胞でも発現していない転写因子である。またGlis1を導入した細胞は増殖出来なくなる。すなわち、Glis1を導入された細胞は完全なiPS細胞となり転写因子の発現が完全にリセットされないと細胞は増殖出来ないことになる。このメカニズムのためGlis1を使ってiPS細胞を作成する時は腫瘍化の原因になるリセットが不完全な細胞が増殖してきにくいという大きなメリットがあるそうだ。マウス細胞において、c-Mycを用いずGlis1を使った時のiPS細胞作成効率は0.7%とのこと。(15)(転写因子Glis1による体細胞初期化の促進(ライフサイエンス新着論文レビュー]])

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.皮膚細胞から万能幹細胞の誘導に成功(化学技術振興機構)
.世間を賑わす「iPS細胞」とは何だろうか(東洋経済)
.ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功(京都大学)



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