通常使用の携帯電話電磁波はどうにか脳の記憶・学習に影響を与えないレベル
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2011.07.08

通常使用の携帯電話電磁波はどうにか脳の記憶・学習に影響を与えないレベル

 携帯電話の電磁波が人体に与える影響に関しては1950年代から繰り返し議論になっています。しかし多くの議論が発癌性などの長期的な問題に関するもので、記憶や学習プロセスなど使っている段階でただちに影響があるかどうかの研究はほとんど行われてきませんでした。今回、ドイツBochumのRuhr大学の神経科学者らが携帯電話の電磁波を浴びた直後の脳神経の学習プロセスへの影響を初めて報告しています。

 実験では、実験用のオスのラットを用いました。これらのラットにSAR値が10W/kg、2W/kg、0W/kg(照射しない)の強度で携帯電話の周波数帯の電磁波を2時間浴びせました。そして直後に脳内で学習や記憶に関わっている海馬の神経細胞を電気生理化学的手法で調べ、LTP、LTDを評価しました。この実験における電磁波の照射はコンピューター制御により行い、ラットに照射したかどうかを気づかれないような環境で行いました。

 結果、SAR値10W/kgの照射によりLTPとLTDが影響を受け記憶と学習プロセスに影響を与えていることが分かりました。2W/kg、0W/kgの照射では影響はありませんでした。同時にラット血中のストレスホルモンCORT(corticosteron)、ACTH(adrenocorticotropic hormone)を調べましたが、これらの値は電磁波の照射の有無にかかわらず上昇していました。電磁波では無く実験によるストレスにより上昇したと言えます。ストレスホルモンの分泌も脳の学習プロセスに影響を及ぼしますが、今回の実験では電磁波の照射とストレスホルモンの分泌の影響は無かったことから、今回確認された記憶、学習プロセスへの影響は電磁波の直接影響であるといえます。

 現在販売されているほとんどの3G携帯電話はSAR値2W/kgに抑えられており(日本で販売される携帯のSAR値一覧)、今回示された結果は日常的な携帯電話の利用は脳の学習プロセスに影響を与えないレベルであることを示しているといえます。ただし実験では5倍強い10W/kgの照射により脳の学習プロセスへの明らかな影響が見られています。これらの事は、職業的に電磁波を浴びる人や、特殊な環境においての電磁波暴露が記憶、学習プロセスに影響を与える可能性があることを示しており、注意が必要と言えます。

 今回示された強い電磁波が記憶、学習プロセスに影響を与える詳細なメカニズムは明らかではありません。携帯電話の電磁波が0.1℃以下の局所的な発熱(thermal effect)を起こすことは報告されていますが、これらによる細胞的、機能的、構造的影響は今のところ解明されていません。また、非発熱的影響として、一時的な細胞膜の流動性と透過性の上昇が、イオンチャネルの変化と代謝に影響している可能性もあると思います。これらの影響が脳内の学習プロセスに影響しているのかもしれません。

Mobile phone derived electromagnetic fields can disturb learning(携帯由来の電磁波は学習を妨げうる)Alphagalileo

Electromagnetic Field Effect or Simply Stress? Effects of UMTS Exposure on Hippocampal Longterm Plasticity in the Context of Procedure Related Hormone Release(電磁波の効果、単なるストレス?携帯電話の電磁波が海馬長期可塑性に与える影響とホルモン放出の影響)PLoS ONE 6(5): e19437(全文)

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