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2012.08.02
遺伝子「ACTN3」を調べることで上達する見込みの高いスポーツを選ぶことが可能に
人間の身体は数10万の遺伝子の働きにより成り立っています。それぞれの遺伝子は親から受け継いだ設計図(遺伝子)の種類により働きや性能に差がありますが、近年の研究により遺伝子診断により、その人の身体がどんな特徴を持つのかが明確に分かるようになってきました。
こういった研究で最も分かりやすい例として筋肉の遺伝子と瞬発力と持久力の関係があります。具体的には瞬発力に優れた筋肉は瞬間的に大きな力が出せるため短距離走や高飛びなどの競技には有利ですが、反面筋力の持続性が低く持久力の必要なスポーツには不利です。この記事では筋肉のタンパク質「αアクチン3」の設計図である遺伝子「ACTN3」を調べることで、その遺伝子の持ち主が「持久力の必要なスポーツ」と「瞬発力の必要なスポーツ」どちらが得意かを見分けることが可能であるとする報告を3つ紹介します。(参考)
以下に一般的なαアクチン3(筋肉タンパク)の設計図(ACTN3遺伝子の示すアミノ酸配列)を示します。注目されているのは赤字で示す577番目のアミノ酸でして、この部分がR(アルギニン)だと瞬発力に優れた筋肉になることが分かっています。この記事ではR以外のアミノ酸をXと表します。人間はこの設計図を2つ(父親から受け継いだものと、母親から受け継いだもの)持っていますが、2本ともRの場合はRR型、2本ともR以外の場合はXX型、それぞれ異なる型の設計図を持っている場合をRX型と表しています。
ACTN3遺伝子(αアクチン3タンパク質)の構造(アミノ酸配列)(GenBankデータベースより)
MMMVMQPEGLGAGEGRFAGGGGGGEYMEQEEDWDRDLLLDPAWEKQQRKTFT
AWCNSHLRKAGTQIENIEEDFRNGLKLMLLLEVISGERLPRPDKGKMRFHKI
ANVNKALDFIASKGVKLVSIGAEEIVDGNLKMTLGMIWTIILRFAIQDISVE
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DTTEQVVASFKILAGDKNYITPEELRRELPAKQAEYCIRRMVPYKGSGAPAG
ALDYVAFSSALYGESDL
★★★報告1:日本人に対する研究★★★
国立スポーツ科学センターが1964年の東京オリンピックから現在までの日本人短距離走選手200人の遺伝子を分析したところ、驚くことに100m走で10秒0台を出せるトップ選手は全員がR型の筋肉(RR型かRX型)を持つことが分かりました。一方で、持たない人(XX型)では国際大会の標準記録を超えた人すら僅かだったそうです。ちなみに記事中の説明によると日本人の2割はXX型(R型を持たない)だそうですが、ジャマイカ人やアフリカ系ではXX型はほとんどいないそうです。
★★★報告2:スペイン人に対する研究★★★
スペインの研究者は以下3つの集団の遺伝子を比較した研究を行いました。集団1 健康な一般の人(284名)スポーツ選手でも何でもない 集団2 持久力に優れた人(50人)ツールドフランスで1回以上完走したことがある人 集団3 瞬発力に優れた人(63人)国内の高飛び優秀選手18名、短距離ランナー45名(オリンピック出場選手13名含む)
結果RR型の比率 RX型の比率 XX型の比率 普通の人 32% 50% 18% 持久力に優れた人 28% 46% 26% 瞬発力に優れた人 48% 37% 16%
瞬発力に優れた人ではRR型(2つ持つ遺伝子の両方がR型)が48%と他の集団よりも多い傾向が見られました。一方、持久力に優れた人はR型を持たない(XX型)が26%と多い結果となりました。瞬発力の必要な競技で良い成績を示している人にRR型が多く、持久力の必要な競技で良い成績を示している人にXX型が多い傾向を見ることが出来ます。
余談ですが、この研究では寿命の長い人(100〜108才)64名の遺伝子も調べていますが、こちらはRR型が多いとか、XX型が多いなどの特徴は見られなかったそうです。この事はこの遺伝子と長寿との関係が少ないことを意味しています。
★★★報告3:イスラエル人に対する研究★★★
上記2つの報告で紹介したACTN3遺伝子の他にも持久力や瞬発力に関した遺伝子が多数知られています。3番目の研究ではイスラエル国内の5000m、1500m、800m、400mの国内最高タイムを保有しているランナーの遺伝子を調べました。以下に持久力に関わることが報告されている遺伝子部分と適した配列、およびそのランナーを調べた結果をを示します。遺伝子の名前 人によって異なる部分 持久力に適した配列 一般に多い配列 上記アスリートの配列 Nuclear respiratory factor 2(NRF2) rs12594956変異(A/C) AA CCまたはCT AA rs7181866(A/G) AGまたはGG AA GG (rs8031031(C/T)) CTまたはTT CC CC Peroxisome proliferator-activated receptor alpha(PPARA) rs4253778(intro 7 G/C) GG CCまたはCT GG Peroxisome proliferator-activated receptor delta(PPARD) T294C(rs2016520) CC TTまたはCT CC Perosixome proliferator-activated receptor-gamma coactivator 1 alph(PPARGC1A) Gly482Ser(rs8192678) GG SSまたはSG GG Alpha-actin 3(ACTN3) R577X(rs1815739) XX RXまたはRR RX
遺伝子を調べた結果、持久力との関係が分かっている6種類の遺伝子のうち、5種類が持久力に適した遺伝子であることが分かりました。具体的にはこのランナーはNRF2、PPARA、PPARD、PPARGC1Aに関しては持久力に適している遺伝子を持ち、唯一、ACTN3遺伝子が瞬発力に最適では無い遺伝子でした。もしかしたらこのバランスのおかげで短距離走に近い400mなどの競技も優秀な成績を残せたのかもしれません。もし、このランナーの遺伝子がACTN3遺伝子までも持久力に適した配列であったならば3000m競技などの長距離ではより良いタイムを出せたかもしれませんが、400mなどの競技は苦手で良い結果を納めることが出来ていなかったかもしれません。
★★★誰でもACTN3遺伝子を調べることが出来るサービス
このように特にACTN3遺伝子に関しては多くの研究がなされ瞬発力、持久力で優秀な成績を出す傾向との明確な相関関係が報告されています。そしてこの遺伝子は以下のリンクのサービスにより1万円ちょっとで個人でも簡単に調べることが可能です。方法は簡単で送られてくるキットで口の中をこすりとり送るだけです。自分の子供が何かスポーツを始める時に適した競技が何かを教えてあげると良い成績を残しやすいかもしれません。
Category:#遺伝子診断 #遺伝子多系
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