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2013.10.07
腸内細菌が健康を維持するのに重要な役割を担っており、腸のトラブルの多くが腸内細菌の乱れが原因であることが分かっています。それでは、腸内細菌をコントロールすることが出来れば腸のトラブルも解消することが出来るのでしょうか?
腸内に悪玉菌が大量増殖するCDI腸炎(Clostridium difficile infection/クロストリジウム-ディフィシル感染症)という病気があります。これにかかると腸内細菌のバランスが崩れて、毒素を出す菌が増え下痢などの症状を起こします。特に高齢者での発生が多く、アメリカでは年間50万人の患者が発生していると言われています。
この病気の一般的な治療方法は「抗生物質」を投与し毒素を出す悪玉菌を死滅させるというものですが、あまり効率は良くありません。抗生物質投与により最初に死滅するのは善玉菌であり、悪玉菌はそもそも死滅し難いからです。実は皮肉なことに、CDI腸炎は抗生物質を投与されて腸内細菌のバランスが崩れた人に起こりやすいことが知られています。
今回、オランダ、アムステルダム大学の研究者van Nood Eらは健康な人の「うんこ」中の細菌(すなわち健康な状態の腸内細菌)を患者に移入することでCDI腸炎を高い確率で治すことが出来ることを報告しています。
研究者らはCDI腸炎になった患者を集め3つのグループに分け、以下のような治療を行いました。第1グループ 腸内洗浄→抗生物質を投与(500mg Vancomycinを1日4回4日間投与)→健康な人の腸内細菌を移入 第2グループ 腸内洗浄→抗生物質投与(500mg Vancomycinを1日4回14日間投与)※一般的に行われている治療方法 第3グループ 抗生物質投与(500mg Vancomycinを1日4回14日間投与)
研究者らが提案する新しい治療方法(第1グループ)では、腸内洗浄後に抗生物質を投与し、元々腸内にいた細菌を減らした後に健康な人の腸内細菌を移植することで腸内細菌の総入れ替えを行います。
この治療を行われた患者16人のうち、13人(81%)で治療効果が見られました。効果の無かった人も3人いましたが、再度別の健康な人の腸内細菌を移入したところ、3人中2人で治療効果が見られ、併せて16人中15人(94%)で治療効果が見られました。治療後10週間にわたって病気の再発もありませんでした。
一方、従来の治療方法である抗生物質の投与を行った人ではおよそ20〜30%程度の人しか症状の改善が見られませんでした。今回の実験結果は新しい腸内細菌の移入治療が従来の抗生物質を使う治療方法に比べて圧倒的に効率が良いことを示しています。
治療のためとはいえ、健康な人の腸内細菌(もちろん”うんこ”から抽出します)を体内に入れられるのは抵抗がある人も多いかもしれません。(上記の試験では移植する健康な腸内細菌は主に、患者の家族から得たそうです)。そこで、Rebiotix社という会社は、健康な人の腸内細菌と同じ種類の細菌を人工的にタンクの中で培養して増やし「薬」として開発しています。開発している薬のコードネームは「RBX2660」。これは「薬」ではありますが、中身は「大量の細菌」です。
現在、開発は順調に進んでおり、安全性を確認するPhase I試験が終了、薬の効果を確認するPhase II試験の許可がアメリカ政府(FDA)より出たところです。試験がうまくいけば、世界初の「生きた腸内細菌」薬が誕生することになります。
Category:治療技術
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