Nature Medicine誌の選ぶ2015年の医学の進歩まとめ
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2015.12.11

Nature Medicine誌の選ぶ2015年の医学の進歩まとめ

 今回は比較的メカニズム解明的な話が多いので素人には分かりにくいかもしれません。肥満が「病気」である証拠が見つかり、肝臓・心臓を再生させるための手がかりが見つかり、エボラウイルスワクチンがもうすぐ完成し、癌を克服するための様々な弱点が明らかになりつつあるようです。腸内細菌の状態が癌治療に大きな影響を与えうる証拠が見つかった点は興味深いです。

(1)肥満に遺伝子変異が関連していることが明らかになった。
 全ゲノムの分析により、肥満時には肥満に関わる遺伝子(FTO)周辺で、微小な遺伝子変化(SNP)が多く起きていることが明らかになった。この変化によりIRX3IRX5といった脂肪細胞が出来るのを抑制する働きが妨げられると考えられる。また、この事は痩せた身体の維持に重要な役割を担っているエネルギーを消費する脂肪細胞(ベージュ脂肪(beige fat))の重要性を証明している。なぜならベージュ細胞の維持にIRX3、IRX5は重要な役割を果たす。ベージュ脂肪細胞は大人になると減少することが報告されている。

(2)注射すれば肝臓を再生してくれる特殊な肝臓細胞が見出されたという異なる3件の報告があった。
(3)エボラへの感染を防いでくれるワクチンの開発が最終段階
 rVSV-ZEBOVと呼ばれるワクチンのPhase 3研究で有望な結果が得られた。試験では投与後6日後には誰もエボラウイルスに感染しなくなった。このワクチンがどれぐらいの期間、保護機能を発揮するかは引き続いて検証して行く必要がある。
(4)通常は増殖しない心臓の筋肉細胞だが、一部増殖する細胞があり、また増殖させるための物質FSTL1が発見された。
(5)脳にもリンパ管があることが分かった。
 これまで脳にはリンパ管は無く免疫から隔離されていると考えられていたが頭蓋骨と脳の間の部分にdCLNsという分子を発現するリンパ管用の管があり、巨大分子が輸送され脳内に入っており、免疫細胞が働いているようだ。

(6)癌細胞が周囲の糖を使い果たすことにより、周囲の免疫細胞を弱らせていることが報告された。
 反対にこの変化を逆転させることで癌治療効果を高めることも出来る。また、この作用は免疫チェックポイント抗体医薬の薬効にも関与しているようだ。
(7)DNAメチル化酵素が癌細胞の増殖を抑制する原理が解明された。
(8)プレート上で微小な臓器様組織「オルガノイド」を使う技術が発展した。
(9)ALSの発症の仕組みの一部が解明された。
 ALSには様々な原因が存在するが、HREsと呼ばれる遺伝子繰り返しが遺伝子C9ORF72で起きた場合にも発症することが分かっている。この場合の発症の仕組みが解明された。
(10)腸内細菌の種類が癌治療の効果に大きな影響を与えることが証明された。
 Bifidobactriumという細菌の糞移植や、経口投与で、近年注目されている癌治療抗体医薬anti-PD-L1の薬効が高まった。これはこの細菌がいることで樹状細胞の働きが高まるためと考えられる。

以下、去年までのまとめ

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 Keyword:遺伝子変異/14




コメント

いいっすね!=116
001 [12.13 17:17]:最近「STAP細胞はあった」的な論文が出ましたが、あれに関するふぇちゅいんさんの見解を知りたいです! (57)

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